月猫ツーリスト雑記帳

かわいいものを求めて西へ東へ右往左往の記録

道程長い長崎新幹線

既に毎年の風物詩であるが,この時期になると整備新幹線の動きが活発化する.12月末の予算案決定までにどの路線を工事対象とするか駆引が行われるためだが,今年は東北新幹線と九州新幹線に一定の区切り(八戸開業,八代開業)があったので新規事業区間を巡った駆引となっている.
現在,新規に工事施工区間となりそうという噂があるのは

  1. 北海道新幹線 新青森新函館
  2. 北陸新幹線 富山−金沢
  3. 九州新幹線(長崎ルート) 武雄温泉−諫早[スーパー特急方式]

の3ルートだが,このうち九州新幹線長崎ルート(以下長崎新幹線と略す)は雲行きが怪しくなっている.


整備新幹線の着工のためには,着工区間に並行する在来線の取り扱いが決定している必要がある.国策として新幹線も在来線も維持することを求められる国鉄とは違い,民間企業であるJRに新幹線を押しつける以上,何らかの見返りが必要,というのがこの考えの基にある.
過去の整備新幹線では,平行在来線の扱いは以下のようになっている.

JRの旅客鉄道が存続可能な区間を選択した後,それ以外の区間が第三セクターになっているということが判る.また,現在着工中の区間についても,北陸新幹線(長野〜富山)や東北新幹線(八戸〜青森)では,沿線自治体から第三セクターでの運行を了承する意思表明があったようだ(明確にまとめて記載されている資料を見つけることが出来なかった).


その一方長崎新幹線では,地元自治体はJRによる運行を主張し,JRは経営分離を模索するという状態が続いていたが,11月5日にJR九州は打開策として,肥前山口肥前鹿島の区間については上下分離を行い,運行はJR九州が行うという提案を行った(インフラについては全区間第三セクターの保有となる).この提案で事態は少しは動くかとも思われたが結局は15日に沿線自治体が提案を拒絶したことにより元の膠着状態に戻ってしまった.


このように長崎新幹線が迷走してしまっている,その理由は2つあると思われる.1つはコースの問題,もう1つが時間の問題である.
まずコースの問題であるが,今回整備新幹線の建設区間として検討されているのは武雄温泉〜諫早であり,駅は武雄温泉,嬉野温泉,大村,諫早に建設が予定されている.このうち,現在博多〜長崎間の特急かもめが通っているのは諫早のみであり,現在特急の通っている区間には新幹線の停車駅はない.つまり,平行在来線としてJRからの経営分離が検討されている区間は全く新幹線の恩恵を受けない,非平行在来線なのである.
続いて時間の問題であるが,そもそも今回の建設区間は40kmほどしかなく,長崎までの時間短縮効果はスーパー特急方式では10〜15分程度と想定されている.つまり,現行1時間55分かかる博多〜長崎間が1時間40分程度となる計算である.この程度の短縮効果に巨額の建設費を投じ,それを使用することにJR九州が疑問を感じている可能性は非常に高い.1時間40分程度の運転であれば,九州新幹線の博多〜新八代が完成し在来線に余裕が出来れば,達成できる可能性の高い速度なのである.


長崎新幹線については,部分開業では中途半端となる可能性が高すぎ,そのために様々な問題が発生しているように感じられる.もちろん,全線一括開業を目指した場合も九州新幹線と線路を共用する博多〜新鳥栖間のダイヤををどうするか(九州新幹線は博多〜熊本で1時間に4本の運転を予定している)という問題があるが,全線一括開業であれば博多〜長崎を1時間で走行でき時間短縮効果が明確となる.また,並行区間が増えることで経営分離もスムーズに行える可能性がある.長崎新幹線については,北陸新幹線の金沢〜南越と同様,今後の計画にした方が良いように思われる.