月猫ツーリスト

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「毛利」展 記念トークライブ「私の雪舟、私の山水長巻」@サントリー美術館~前編「山水長巻」編

日曜のことですが、サントリー美術館でのトークイベントに参加してきました。
今回は、現在開催中の「毛利家の至宝」展で展示されている雪舟作の国宝「山水長巻」を中心に、明治学院大学教授の山下裕二先生に雪舟の魅力を語っていただく、という内容です。正直ベース、雪舟の魅力はよく解ってませんでしたので、山下先生が見たくていったというのが正確なところです(え?)。


ま、私の与太話は置いておいて、早速山下先生のトークの内容をかいつまんで書いてみたいと思います。
(途中副題は、読みやすくするために勝手につけたものです。トークの中ではこのような副題はありません。)

山下先生と雪舟との関わり

まず最初は山下先生と雪舟との関わりについて。今は縄文から現代美術まで幅広い活躍の先生ですが、雪舟は元々の専門分野だそうです。ちなみに、現代美術の作家さんと会話している時に「先生は古いもんも詳しんですね~」と言われて、「昔ちょっと噛ったもんですから」と答えたとか……。

雪舟について一番執筆などをしていたのは2002年、没後500年記念として東博と京博で企画展をやった時(両方あわせて50万人が来たとか)だそうです。ただし、2002年が没後500年というのは嘘で、没年が1506年ごろという説(通説)と1502年という説の2つの説のうち、都合のいいほうが採用されているとか。
この時に書きたいことは書いたので、今回の講演は久しぶりの雪舟ということになるそうです。

山水長巻との出会い

ここからは、正面に山水長巻をスクロールさせながらの説明となります。ちなみにパソコンの操作をしているのはサントリー美術館の石田学芸部長さん。学芸部長にパソコンの操作という贅沢ができるのは、二人が大学の同期だからという理由です。こういう長い付き合いって素敵ですね。

ところで山下先生が最初に山水長巻を見たのは学生の頃(1980年ごろ)、誰もいない毛利博物館でじっくり見たそうです。

山水長巻(春)

そんな山水長巻、まずは巻頭の春の部分から。冒頭に木が出てきますが、この木の葉っぱが真っ黒。相当筆を叩きつけるような激しい筆致で、かなり勢い込んで書き始めたんだろうなと想像できると。

ここで小林秀雄の「雪舟*1で山水長巻に触れているところを引用し「こういう表現は美術史家には出来ません」と。

その後、山道の後に白いところが出てきて、その先にある山の松は冒頭とはぜんぜん違う描き方、綺麗な色を指しています。しかし、下の方の岩は、やはり叩きつけるような墨が見られます。
またこのこの辺りは何層にもモチーフを重ねていく描き方がされているのが特徴。ぎっちりといろいろな情報を押し込めるように描くのも雪舟の特徴だそうです。

少し先に行って人物が橋を渡っているあたり。ここでは水流のひょろひょろっとした線が筆の動きに任せたようであり、また岩が筆の穂先が割れたまま、穂先を揃えることなく描き進めていて、この絵のライブ感を感じます。

この先は斜めの岩があって、場面が変わって春から夏になります。

山水長巻(夏)

夏の場面は水面から始まってますが、水面には綺麗な藍色が付いています。山水長巻は水墨画ですが、色の美しさも見所です。
その水面に水上生活者がいますが、よく見ると船の上に洗濯物が干してある(笑)。これは雪舟が中国に行った際に見た様子を反映して描いたものだろうと。山下先生は雪舟が中国で辿ったであろうところを順に訪れたことがあるそうですが、実際にこのような様子を見たことがあるそうです。

この船の場面は特に綺麗で、定規を使って丁寧に描いています。けど、船の場面が終わって、岩の表現になった途端に荒々しくなります。
「きっと定規とか体質的に合わないのでしょう」とか山下先生も言い出す変化です。

そして、「この辺の岩は書き殴ってます。ジャクソン・ポロックもびっくり」と名言が飛び出しました。
で、雪舟はアクション・ペインティング的なところがあって、ライブ感が感じられると。たしかに丹念に見ると、筆の勢いが凄いですね。こういうことに気づくことが出来るのが、講義の良いところです。

そして奥に続く奇怪な岩組があった後に崖の上の建物があって、その直後。「で、この場面、意味が不明です」と。のっぺりとした岩ともつかないものが画面を覆います。これは「ここまで密に表現したから、ここはのっぺり」という気持ちなのではないかと。雪舟はリズムを意識して描いているようです。

山水長巻(秋)

水のあるところを超えると刈り取られた田んぼが見えるので、秋の景色です。

少し進むと沢山の人がいる場面になります。とても細かく描かれて、また、枝先の色が綺麗です。そしてその先には……
「で、細かいことをやった後に疲れたんでしょうね」ということで、真っ黒な気が登場します。「ここまで黒くしなくったっていいでしょう?」とは先生の弁です。

要するに「雪舟は逸脱」が面白いところなわけですね

山水長巻(冬)

そして冬の場面。ここは城壁がずっと続きます。その城壁の上の突起物、最初はしっかりと立体的に見えるように描いているのに、進むにつれて形が崩れて、「最後の方は適当ですね」と。「いい加減なところも、雪舟の魅力です」、だそうで。確かにだんだんと人間臭くなって来ましたよ、雪舟さん。

で、最後にベタッと塗った気が出てくるのですが、山下先生いわく、「疲れてますね。下手ですねー、ここ」。


最後に落款ですが、「天童前第一座」(中国寧波近くの天童景徳寺での、前の一番弟子、位の意味ですかね?)と、20年前の中国でのことを肩書きに書いています。「俺は中国に行ったぜ」ということを生涯自慢していたのが雪舟なのです。

山水長巻(模本)

ここまでで長かった山水長巻のスクロール解説はおしまい。続いて、スライドは山水長巻の模本(雲谷等顔のもの)が映しだされます。
「ここまでの話を聞いた上で見ると、模本は整理整頓されちゃってるでしょ」ということで、確かに筆の勢いが無くなった、大人しいものになっています。

続けて、今度は狩野古信の模本が映し出されます。
18世紀の頃の狩野派は相当の数の模写をしているそうで、将軍吉宗が集めさせたりもしていたとか。
ともかく、この模本も線が整理されてしまっています。

雪舟が生ものなら、模本は冷凍食品。どちらも美味しいけど」とは、言い得て妙です。



と、長くなりすぎたので、山水長巻以外の作品についてはまた日を改めて書きます……。

*1:潮文庫モーツアルト・無常といふこと』に収録