出光美術館で開かれている「源氏絵と伊勢絵」という展覧会ですが、もうそのタイトルを聞いた段階で私個人としては期待が振りきれてしまっておりました。なんたって私が一番読み込んだ小説である源氏物語を材料に、これまた大好物の大和絵をふんだんに展示しようというわけですから、期待するなという方が無謀です。
というわけで、いそいそと開催2日目には見ていたのですが、感想が書けないまま会期末が近づいて、これではいけないと会期末前日に見なおして、やっと感想を書いているのは会期末当日の早朝というか午前0時、というわけでございます(汗)。とにかく、会期が終わる前に書けて良かったというべきなのか?
と、与太話はこれくらいにして、感想の方、書いていきます。
なお当方、源氏読みですが伊勢知らずなので、感想が源氏に偏ってしまうのは、ま、しょうがないということで……。
今回の展示、冒頭は岩佐又兵衛の描く光の君と昔男の肖像画。このうち光源氏の方は旧金谷屏風の一部で、第10帖の賢木で伊勢に下向する六条御息所を訪ねに野々宮に行ったところを描いてます。野々宮の中に入る事自体がタブーに挑戦ですので、相当の覚悟をしている表情が伝わってくる描き方。さすが岩佐さんという感じです。
肖像画の次は、源氏物語名場面集という感じで、源氏物語を扱った屏風などが続きます。
まず、伝土佐千代の「源氏物語図屏風」。右隻の右半分に描かれているのは若紫の名場面、「雀の子を犬君が逃がしつる」と若紫が言っている声が聞こえてきそうです。というか、わたしゃこの場面に無条件に萌えてしまうんですよ。もう若紫可愛いって……。
ちょっと、光の君の心境で見てますね、この辺り(汗)。
狩野探幽の「源氏物語賢木・澪標図屏風」ですが、この右隻は冒頭の岩佐又兵衛さんも描いた賢木の帖。岩佐さんは野々宮に到着したばかりの鳥居の脇に立つ源氏を描いていましたが、こちらではその先に進んで野々宮の中に入り込んでいる源氏が描かれてます……。つか、そんなところまで入り込んで大丈夫なのか、光源氏?。
それはともかく、淡く繊細な描き方が物語の場面を盛り上げているような絵と感じました。
第3章は伊勢物語の名場面集です。と言いつつ、伊勢は粗筋が判ってないから、今ひとつ理解出来ません。そう、大和絵を楽しむためには、元となる物語や歌を知らないといけない、知らないとすぐに置いて行かれる世界なのです……。
取りありずここでは、岩佐又兵衛の「伊勢物語 くたかけ図」が、その色や構図が近代日本画のように思えて凄かったです。
第4章では、土佐光吉に焦点を当てて、源氏絵と伊勢絵を見ていきます。
もうここはね、何種類も出ている源氏物語の色紙や画帖(その中には、今年重要文化財になった和泉市久保惣記念美術館蔵の源氏物語手鑑もあります)を眺めているだけで幸せという空間で、いや良かったです。あと、ちょうどここに54帖すべてから1つ以上の場面を描いている屏風も展示されていますので、同じ帖がほぼ同じ構図で描かれていることも確認できます。以前描かれたものをお手本とするうちに、型が決まっていく感じを体感出来ました。
私が見た中だと、花宴の帖での「朧月夜にしくものぞなき」の場面は全く同じ構図だったかと。
そして最後は「留守模様」。源氏物語や伊勢物語の場面の背景が、人物抜きで描かれるようになったものです。
ここに登場するのは源氏物語からは宇治十帖の舞台の宇治橋、そして伊勢物語からは八ツ橋。ということで、酒井抱一の「八橋図屏風」が真打で登場です。なんかこの章自体、この屏風を出すために作ったのではないかと勘ぐってしまいますが、それはそれ。ちょうど根津美術館で尾形光琳の「燕子花図屏風」(八橋図屏風から更に橋を抜いてしまった構図です)も出ているので、セットで見ると面白いです。
ということで、すっかり楽しんでしまいました。伊勢物語もちゃんと知っていれば、更に楽しめたと思うと残念ですが、そこはもうちょっと勉強して再チャレンジしたいなぁと思う次第です。