月猫ツーリスト雑記帳

かわいいものを求めて西へ東へ右往左往の記録

山種美術館「kawaii日本美術」記念講演会

11日の土曜の話ですが、山種美術館で「kawaii日本美術」展覧会の記念講演会として、山口晃さんによる特別講演会が有りました。

山口晃さんといえば現在館林美術館で個展中と多忙中での講演会ですが、そういう忙しさを感じさせない、軽快なトークでして。

冒頭の山崎館長の紹介によると、山口晃さんは山種美術館にほど近い日赤病院(現在の名称は日石医療センター)での生まれということで、まず最初には日赤病院からのバスの話(東京女学館から東4丁目への下り坂でエンジンの振動が激しくなるかどうかで、運転手の上手下手が判るというような話)が飛び出したりしてました。
ちなみに今日はかみさんから笑いは無しで行けと言われたそうですが、冒頭から(その点については)前途多難です。


ちなみに今回の公演をするにあたって(山種美術館から送付された)資料を見て、「本当に可愛い?そんなに……」と感じたそうで、特に、「小出楢重のこどもとか、おじさんかい!」とか。「でも、実物を見ると、あ、可愛いと思えるんですよ」とのことで。
ということで、このあとは作品ごとにスライドに表示しながら、その可愛さのポイントを解説していく感じになります。

(以下、自分がメモを取ることができた部分から、10作品ほど書き出してみます)

狩野常信「七福神図」

江戸時代に描かれたこの絵巻、「一番可愛いのは布袋さんで、子供はそんなに可愛くない」という評価。何故子供が可愛くないかというと、「子供のプロポーションになってない、大人が小さくなっている」からなんだとか。子供の誕生は日本にもあったという視点は、気づいてませんでした。

また、日本は笑うときは顔の全部が笑うのに対し、ヨーロッパ(ベラスケスとか)だと観察眼が勝っているから顔のパーツを細かく描いてスナップ写真のようになるのだとか。

そして、背景の金泥、金粉にも注目します。この金泥、金粉の見事さ、近代のものと違っていて、空間を作るために使っていると。逆に近代の方が装飾で用いる傾向があるとか。

伊藤小坡「虫売り」

心持ち、子供のプロポーションがやや大人で、顔が小さめと評価しています。洋服では脚が長い方が河合いくなりますが、着物は胴が長い方が可愛いくて、体に表情がつくのだとか。
松園と比べると田舎の子供という感じ。松園は綺麗すぎると感じるそうです。

小出楢重「子供立像」

先程、「おじさんかい!」と言っていた作品ですが、実物を見ると「びっくりするくらい綺麗な絵。セーターの紫とか、透明感とハリがある」と感じるそうです。確かに実物は、印刷で感じる薄暗さは消えて、飴色の光沢を感じる絵でした。
またこの絵にいては、空間がしっかりしているということを説明していました

小茂田青樹「愛児座像」

「さっきから怖い顔ばかりですが」といって笑いを取る山口さんです。 
この絵は、空間がかなり意識的に描かれているのがポイントだそうで、顔も左右で視点が異なったり、敷物が意識的に起き上がったりしているのだとか。
でも、そんな話のあとに、犬のぬいぐるみがお尻を向けてるのを見て「犬の可愛いのはお尻の穴じゃないかと」言い出すあたりが面白かったです。

西村五雲「犬」

第一印象は、「一瞬栖鳳かと」とのことで、「今はどれだけ違うことをやるか、みたいになっているが、憧れている人を真似るのっていいと思う。真似たくない人(芦雪とか)だけ違うことをやれば良い。」という発言がありました。
絵については、輪郭線が残っていて、そのにじみ具合で毛の柔らかさ(ものの硬さ、質感)を出しているのが素晴らしい点とのこと。
といいつつ、「ちなみにこれは犬ですんで、鯰ではありません」と、落とすところはちゃんと落としていました……。

麻田辨自「薫風」

うつむきがちの2匹の仔犬がかわいらしい作品で、「顔だけで(紹介する対象に)選んだ」というのうなずけます。
絵に毛のふわっとしたあとの温かさがあるように感じるのを見て、「この人、触って書いてますね」と言う山口さん。絵に表現するには、直接対象に触れることも大事なようです。
また、うつむきがちな絵の犬を見て、「犬ってうなだれますよね、猫はうなだれない、やつは見上げてくる」と。今回の展覧会に栖鳳の「班猫」が出ていたら、ここで比較に出せたのに、と思ってしまいました。

ちなみに、左側に描かれている花については「これ無くていい」だそうで。

竹内栖鳳「あひる」

「上手すぎてちっとも可愛くない」とクレームを申し立てる山口先生です。そして、「この筆数でアヒルになるのか」と言いながら白板に真似て描いてみますが……そんなに簡単には似た絵にならないわけで。
筆数が少ないのは、実物を見ながら描いているわけではないからというコメントで、見ながら描くと筆の勢いが無くなってしまうとか。本来、筆は線と濃淡と形の3つを気にしないといけないのに、栖鳳は筆を完全に身につけてしまったので形だけ気にすれば良かったから、勢いのある絵を描けたのだろうという分析でした。

雀の小藤太絵巻

雀が出家するというストーリーの御伽草子、最初のスライドでは余り擬人化しないのが良いですね、表情が動かない可愛さがありますというコメントでしたが……。
次のスライドでは雀が剃髪する際に手を合わせていて、その手は何処から?と突っ込む山口先生でした。

新蔵人物語絵巻

サントリー美術館が所蔵する白描の絵巻物です。吹き出しの無いのが良いですねと評価する山口さん。絵と余白に描かれている文字で、空間が複雑になっている点が素晴らしいということだそうです。
また、白描なので線が美しい。もしも色を塗ったら線が隠れてしまって美しさが無くなってしまうという評価でした。

伊藤若冲「伏見人形図」

時間もないので駆け足の紹介でしたが、絵なのに土人形の粒状感が表現されていて、工芸になっているのが特徴ということです。


引き続き、聴衆からの質問を受け付けます。質問内容は、「作品が描き終わったという終了の基準は?」というもの。
それに対して回答は、「〆切がきたとき」だそうで……。
ちなみに、〆切がどこまで伸びるのかが重要で、もうこれ以上伸びませんとなってからが勝負のようで……。
〆切が来て、出展したあとに加筆しても良いのですが、あとでの加筆は「火が落ちる」様な感じで、熱意のようなものが無くなってしまうのだそうです。



という感じで1時間半の講演会でしたが、最初の七福神図で時間を使いすぎたのもあって、あと1時間くらい足りなかった感じかなと。ま、足りなかったかなと思う分は、また別の機会の講演会で補えればと思うのです。