月猫ツーリスト

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「毛利」展 記念トークライブ「私の雪舟、私の山水長巻」@サントリー美術館~後編

さて、前回に続きサントリー美術館で行われた山下裕二先生の講演会「私の雪舟、私の山水長巻」の様子をかいつまんで書いてみましょう。
後半は山水長巻以外の話となります。

なお、予想通りですが、書くのが遅くなったのもあって、トークの再現度が前半よりも低いです……

秋冬山水図(国宝・東博蔵)

これはよく知られている絵で、特に冬の方が有名です。国宝指定され、切手にもなりましたが、同時切手少年だった(1960年代の子どもはみんな切手を集めてた、と断言する先生)山下先生、子供心につまんない絵だなと。
この絵は縦横のサイズが出版物に適しているのでイメージが流通したのではないかということです。

まずは冬図の方。中央に山水長巻でも出てきたオーバーハングする岩が出てきますが「これが岩の輪郭線とは見えない」と。確かに、上の方に行くと背景に溶け込んでしまって、何なのわかりにくい感じです。
で、その左側に雪山がありますが、その輪郭線はヘロヘロ。雪山の下(建物の後ろ)に描かれている山は雪山より手前なのに遠くにあるものの描き方がされていたりと奇妙な感じになっています。
極めつけは「で、この黒い墨は何ですか!」と中央一番下のところを指して言う山下先生。
こんな感じで見ていくほど変な絵ですが、「この絵は変な絵だから面白いのです」と。

なお、秋図の方は「冬図と比べると普通ですね」ということで素通りです。

秋冬山水図はもともと春夏とあわせて四季山水図だったと考えられます。その理由は落款が冬図の左上にあって秋図にはないから。きっと最初は右から春夏秋冬となっていて、春の右側にも落款があったのでしょうと。
冬図が変な絵で、秋図がそんなに変ではないので、「きっと夏は普通で、春図はとびきり変だったに違いない」とか。

山水図(大原家蔵)

この作品は絶筆と言われる作品です。この作品の賛に1507年との記載があるので、その年か前の年に死んだかなと推測されます。

右下の岩は45度の線で、黒く塗りつぶしただけという感じ。また、水面の手前の山をシルエットで書いているのに、奥に描かれている船は輪郭がはっきりしていたりと、ほとんど抽象画です。

天橋立図(国宝・京博蔵)

「この絵の変なところは何処でしょう?」と山下先生の問いかけから、この絵はスタートです。
正解は絵の下の方にある山並み。水面の手前なのに遠景の描き方がされている点が変なところです。って、先ほどの絵でもこんなところがありましたね。

この天橋立図、実際にこのような風景は地上で見ることはできなくて、ヘリコプターで100mくらいまで飛ばないと、こう見えないとか。ちなみに先生は実際に飛んで確かめたそうです。

ところで、この天橋立図によく似た感じの絵として中国の西湖図があるそうで、この絵を意識していることも考えられるようです。西湖図では湖の左に塔が描かれていますが、天橋立図でも天橋立の左側、水面を挟んだ位置に建物と小さな塔があります。で、その近くに石の地蔵がありますが、このおじぞうさまは今でも雨ざらしで立っているそうです。

画面の右端に島が2つありますが、本当は20km程度沖合のもの。神社(籠神社)の神域に当たるので引き寄せて描いたようです。
ちなみに籠神社は調べてみると元伊勢の一つで天橋立も神域というか参道にしていた格式の高い神社のようです。

またこの絵は細部はラフなので、下絵と思われるそう。20枚くらいの紙を貼りあわせていることからも、下絵と言えるとのことです。確かにね、図版にしても神の切れ目がすごく目立ちますものね、天橋立図。
また、海の中の何も無いところに朱が載っているところがあって、ぱたんと2つ折りにした時に、色が写ったのではないかとか。この辺りもいかにも下絵の扱い方ですね。

破墨山水図(国宝・東博蔵)

この作品については、絵よりも上の賛に書いてある中国の自慢話が長いのが重要です。この絵は京都に向かう弟子に渡したものですが、弟子に対する言葉は僅かで、沢山書いてあるのは雪舟が中国に行った話。特に、「中国に入り」の「入」が太字になっていて、「俺は中国に行ったぜ!!」と強く主張しています。

中国での雪舟について

ということで、雪舟が自慢する中国での足跡を見てみましょう、ということで、まずは中国で描かれたとされる「四季山水図」(重文・東博蔵)。中国の人の印が押されていたりするので中国にあったことは確かですが、どうして日本に今あるのかは不明だとか。
ちなみに今、中国に雪舟の絵は残ってないそうです。

ここで中国の地図を見ながら中国での足跡を確認してみます。模本ですが、行ったところを描いた巻物があるので判るのだとか。
寧波から始まって杭州、蘇州、揚州、運河を通って北京と大旅行だったことがわかります。

そしてここで、よく見る雪舟の肖像画(藤田美術館蔵)。雪舟の肖像画は必ず帽子をかぶってます。有名なこの絵でもかぶってます。
これに対して山下先生、「きっとこの帽子は中国で入手したものです。パリ帰りのおやじのベレー帽と同じ!」とばっさり。ドンドンと雪舟のイメージが崩れていきますなぁ。

次に出てきたのはサントリー美術館が最近所蔵した作品(多分、昨年の「夢に挑むコレクションの軌跡」展で出てきた「摘星楼図」だと思います)。
若いころには丁寧に書いてるけど、「大人しいでしょ?、これ」と山下先生。ま、確かに激しさや不可思議さは足りないですね。

慧可断臂図(国宝・斉年寺)

中央の達磨と慧可のインパクトが強い慧可断臂図ですが、穴の開いた岩など、今まで見てきた水墨画でも登場していた表現が見られます。

人物の方を見ていくと、達磨のまぶたの線画がちょっとおぼつかない感じだったり、慧可の耳も……
「この絵で変なのはこの耳。何ですか、餃子の皮みたいなのは!」と山下先生。餃子の皮って、ちょっとw。
この絵は一応、達磨と慧可の二人を後ろから見ている場面ですが、その状態で顔だけ横向きにしたので、こんなことになったのだろうと。

更に、左下の落款ですが、文字が絵の線にかぶってよく読めないとか、最後の一文字の最後の一画を書く前に墨が切れて墨継ぎをしているとか……。
「こんな情けない落款。これぞ雪舟!」って先生、それ褒めてません……。

そんな落款のせいもあるのか真贋論争があり(日本美術史の重鎮が偽物判定していてなかなか真筆とされなかったとか)、この絵が国宝になったのは2004年。2002年の展覧会の時にこの作品について盛んに書いたこともあってか、国宝になったと。
その時書いた本ということで、この本の表紙が大写しに。

雪舟応援団

雪舟応援団


当然ながら会場爆笑。この写真のために坊主になりましたとか、先生、楽しすぎます……。

ちなみにこの絵で昨日(5/12?)「美の巨人たち」の収録をしたそうです。ちょっと期待ですね。

四季花鳥図屏風(重文・京博蔵)

時間が足りないこともあって、この屏風はあっさりとした紹介です。
見所は、山水長巻でも見られた、様々な意匠を詰め込んだようなところ。枝が複雑に絡み合い、「超詰め込み&超ねじれ」。

毛利展出品の他の作品

ここで、毛利展に出ている雪舟以外の作品で、山下先生注目のものを2点。
(月猫注:この2点、両方とも14日までの展示で、今は展示されてません……ちゃんと見ておけばよかった)

まずは俵屋宗達の「西行物語絵巻」(重文)。この作品は宗達の基準作と言われるものです。
模写的なものですが、たらしこみなど琳派の技も見られます。

丸山応挙「鯉魚図」。鯉の滝登りを描いている絵ですが、この題材は人気があったようで結構作品があります。
応挙については、来年3月に愛知県美術館で展覧会をやるそうですので、こちらも注目です。
若冲などが注目されていますけど、応挙あっての、です」ということで、応挙に注目が集まるようにしたいとか。期待しましょう。

まとめ

最後に、岡本太郎雪舟なんかくそくらえと言っている文章(山下裕二日本美術の20世紀」収録)を引用しつつ、雪舟についてのまとめです。

雪舟の逸脱は、当時の本来の水墨画と比較しての逸脱なんです。なので判りにくいけど面白いんです。
若冲は簡単です。絵を見せれば凄いって思うもん。もう若冲はいいですね。

ということで、今度は雪舟をブームにしたい感じの先生でした。

おまけ、今後の展覧会予定

最後の最後に、山下裕二先生が監修する、今後の展覧会が予告されていましたので、紹介します

  • まず、10月にパリにいらっしゃるようでしたら、笑いの展覧会をやります
  • そして12月にBunkamuraで白隠
  • 来年3月には愛知県美術館で応挙
  • そして2014年の春には、三井記念美術館で近代工芸の展覧会があります。

さすがにパリはきついですがその他は行きたい所です。



ということで、90分間ノンストップのトークでした。まさかそれを書きだすのに1週間近くかかるとは思ってませんでしたが……(書くのが遅すぎる月猫さん)。
ともかく、山水画の何処がいいのかさっぱり判ってなかった私には、今回、山水長巻をずーっと解説付きで追ったことで、初めて見方が判ったというか。良い経験が出来ました。

それにしても、若冲の次をもう考えているのですね。次はどんなムーブメントになるのか、リアルで流行が作られるタイミングを見ることが出来そうで、期待したいです。