静岡県立美術館で開催中の、「めがねと旅する美術展」を見てきました。
この展覧会は青森県立美術館、静岡県立美術館、島根県立石見美術館の学芸員さんが立ち上げた「トリメガ研究所」が企画したものです。トリプルめがね(3人の学芸員さんが3人とも眼鏡をかけている)でトリメガ研究所、というのが名前の由来ですので、眼鏡がテーマということは研究所が企画する展覧会として真打、もしくはファイナルということのようです。
ちなみに前回のトリメガ研究所の企画はこれでしたね。
lunacat.yugiri.org
そのテーマの眼鏡ですが、眼鏡をかけた美少女キャラが延々と展示されている、なんてことはもちろんありません(ちょっとだけ期待はしていたが)。
ここでの眼鏡とは要するに「視覚を拡張するもの」という意味で、虫眼鏡、遠眼鏡、色眼鏡、そんな言葉で使われる眼鏡だったのでした。
まずはどストレートに遠近法や鳥瞰図に関係するものが並びます。
高橋由一の山形市街を描いた絵は、西洋の遠近法(一点消失法)を取り入れた初期の絵として紹介されてました。確かに、綺麗な一点消失ですわ、これ。
山口晃の百貨店図は日本橋三越のリニューアルの際に描かれたものですが、これは上から建物を俯瞰的に見るだけでなく、時間も過去から未来まで俯瞰しているような面白さがあります。
また遠近感を強調した構図として歌川広重も登場します。東都江戸百景で向島の二階にいる猫さんの絵です。
これも近くの猫と、遠くの山がフレームを使うことで遠近感が強調されるというものでした。
鳥瞰図といったら忘れてはいけないのが吉田初三郎。吉田初三郎の鳥瞰図もちゃんと展示されています。八戸の鳥瞰図の原画も展示されていて、流石に原画は大きいので見やすいですね。
それから静岡の特別バージョンとして、富士山に関係する展示がありました。
中村宏さんは富士山の山頂を双眼鏡で覗く女子高生。なお女子学生はマネキンです。なるほど、中村宏さんといえば鉄道と一つ目のセーラー服女子高生の人でした(どういう認識の仕方だ)。
不洗鉄の富士山を描いた作品もありました。東京ステーションギャラリーで見た時よりも近づいてみることが出来ましたので細部まで確認しましたが、富士の大きさと周囲の細かさの対比が、不思議な感覚につながります。
視覚の拡張は現実だけでなく、空想方面に拡張することもできます。
地理人さん(今和泉隆行さん)の描く中村市の都市地図が印刷されていました。何処にもないのに何処かにありそうな中村市。それが昭文社の都市地図的な色で表現されています。これ、見入ってしまいますね。
そのほかにも、鉄道という高速移動による視覚の拡張、人工衛星や飛行機による空からの視野拡張、。錯覚を使った見え方の変化、なんかもあって、視覚に訴える展示にあふれてました。
こんな感じで、美少女の美術史と比べると破壊力は強くないですが(比較対象が強すぎるだけ)、視覚を起点に色々なものを見ることができました。いつもながら、静岡県立美術館の展示は上手いなぁと。
ところで予想通りですが、図録と展示は章の分け方などがだいぶ違うのですね。こういうそれぞれの美術館で学芸員の腕の見せ所がある展覧会、大好きです。