静岡県立美術館で行われている、高橋コレクション展を見てきました。
高橋コレクションは現代美術を中心とした個人コレクションですが、以前に東京オペラシティギャラリーで見たときにかなりツボだったので、機会があればもう一度見たいものだと思ってました。今回は割合に東京から近いところでの開催でしたので、早速行ってきたというわけです。
(以前に高橋コレクションを見た時の感想はこちら)
lunacat.yugiri.org
ただ、今回の会場は静岡県立美術館ですので、単純に個人コレクションを並べて終わり、なんて単純なことはしません。こういう工夫みたいな点は、いつも静岡県立美術館はうまいですから、おのずから期待が高まります。
では、展示を見ていきましょう。展覧会は、「いないいないばあ」「おとなこども」「なぞらえ」の3つのパートに分かれています。
まずは「いないいないばあ」というタイトルのセクション。ここでは移り変わる流れの一瞬を切り取ったような作品を集めています。
入口を入っってすぐのところにあったのは松林桂月「夜桜(春宵花影)」。月光に照らされる夜桜を描いているのですが、桜の葉が風に揺らめくさまも見えるようです。
ちなみにこの作品は高橋コレクションではなく静岡県立美術館の所蔵するもの。美術館の所蔵作品と個人コレクションを同じテーマで並べることで、現代美術も日本美術の大きな流れの中に置くことが出来るということを示そうとしているようです。
青山悟さんの「夕暮れの新宿」は、夕暮れの空のグラデーションを刺繍で表現していました。夕暮れの空は場所によって色が変わるし、時間によっても変化するので、それらを止めて表現するのって、千差万別になりますね。
で、その青山悟さんと同じ主題を描いたのが、静岡県美が所蔵する浅井忠「雲」。同じテーマを新旧並べて展示する手法、なかなかやりますな。
畠山直哉さんの「Slow Glass」シリーズから3作品。これらは雨の日に自動車の中から街の様子を撮影したものですが、ガラスについた水滴にフォーカスを当てて街をぼやかしていて幻想的に。更には雨粒による光の拡散というコントロールできない要素も絡むので、似たような写真でも雰囲気が変わるのが面白いかと。
宮永愛子さんの作品も3つありました。毎度おなじみの箱詰めナフタリンの世界ですが、宮永さんの作品は1回くらいは箱を開けてナフタリンを全部蒸発させてみたいです(をぃ)。そういう意味で、消滅に向かって進むしかないナフタリンの動きを止めている、時を止めた作品の一つなんですね。
蜷川実花さんの写真も大写しで4点。一瞬の光が原色をまとって見えてくる、そういうことなんでしょう。
青木美歌さんの作品が4点ほどありました。フラスコなどの理科用品からキノコが生えていたりして、ちょっとおもしろい感じ。
つづいて「おとなこども」の章になります。体は子供だけど心は大人だったり、そんなアンバランスな少女を描いた作品が続きます。
ある意味、現代アートのメインルートですよ、この章は。
ということで、アンバランスな少女方面での巨匠が2人続きます。まずは奈良美智さん。雲に乗った少女という風情。とはいえ、この人の描く少女は少女なだけじゃないから気をつけろって反射的に思うわけで。
会田誠さんの「大山椒魚」は、巨大なオオサンショウウオと美少女というアンバランスをどう解釈するのか、という作品だと思いますが、先日京都水族館でオオサンショウウオを見たせいか、こういうのもありじゃないかと思ってしまって……(をぃ)
そういえば波の模様は青海波になっていて、伝統を踏まえた絵でもあります。
樫木知子さんの「風鈴」は、風鈴と同化してしまった少女が涼しげで可愛くてねぇ。どんな前世の因縁で風鈴になったのか?などと考えるのは野暮かもしれません。
obさんの作品が3作品。やはりobさんはこちらを見る大きな目が、悲しんでいるのか憐れんでいるのか、不安をあおります。
橋爪彩の「Flora」。この人の作品は、スーパーリアリズムとも言える精緻な描き方でありながら、必ず顔を隠すことで不安を感じる、そのあたりが魅力的です。
最後の章は「なぞらえ」。ようするに本歌取りというか、過去の日本美術を踏まえた作品が登場します。
例えば奈良美智さんの描いた浮世絵風な絵なんてものものが出てきたりしまして。富士山も描かれて、なるほど北斎だわと。
チームラボの「世界は統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う」は、伊藤若冲の鳥獣花木図屏風を動くようにした作品。2016年の若冲展にも同じようなものが出ていましたが、それの改良版らしいです。この作品の隣には伊藤若冲の鳥獣花木図屏風(複製)も展示されているので、比較してみてみるのも楽しいです。
(写真は若冲展で展示されていたもの)
会田誠の「紐育空爆之図(戦争画RETURNS)」。これ、零戦でニューヨークを爆撃するという物騒な絵ですが、零戦の描き方はまさに鶴下絵三十六歌仙和歌巻なんですよね……。
そして、過去の日本美術を踏まえた作品と言ったら忘れちゃいけない、山口晃さん。「當卋おばか合戦」は普通の合戦絵に見えながらロボット兵がいたりなんかかっこいい機械が出てきたり、機械萌えもキャッチしているところが良いですわ。
最後に展示場を出て、美術館の入口にあったのが、鴻池朋子さんの「皮緞帳」。
いや、ひたすら大きさに圧倒されるでしょ、これ。
と行った感じで。過去にも書いたことがありますが、高橋コレクションは現代美術のコレクションですが抽象度の低い作品が多いせいか判りやすく感じてみていて楽しいのが良いですね。
個人コレクションなので贅沢は言いにくいのですが、こうやって2~3年に1度見る機会があると助かりますわ。